テストステロン補充療法:高齢に伴う有酸素能力の低下を予防できる? | 日本メンズヘルス医学会

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テストステロン補充療法:高齢に伴う有酸素能力の低下を予防できる?

有酸素能力の低下

 歳をとると有酸素能力が低下します。有酸素能力は高齢者の行動を制限するためできるだけ高い有酸素能力を保つことが高いQuality of lifeに繋がります。

有酸素能力の低下にはいくつか原因があります。高齢に伴って運動する頻度が減ることとホルモンの低下が主に考えられます。

歳をとるとスポーツを行う機会が減っていき、体を動かす時間も少なくなります。そうすると肺・心血管機能も衰えます。それが当然の低下の原因の一つですが、もっと複雑な低下の原因もあります。

 

テストステロンの低下と有酸素能力の低下

 テストステロンが低下するとインスリン感受性も下がり代謝機能が衰え体組成が変わり、体脂肪が増加し筋肉量が減ります。従って肥満になりやすく有酸素能力も衰えます。

 有酸素能力は肺・心血管機能と筋細胞における酸素のエネルギー(ATP)への変換に依存します。筋肉量と代謝機能を保つこと以外にも血中テストステロンは直接肺機能を改善すると思われます(Lenoir et al., 2020)。

アンドロゲン受容体は成人の肺、主に上皮およびII型肺細胞にて存在します。
肺においてはアンドロゲンは遺伝子発現プロファイルに影響を及ぼし、酸素輸送に関与する遺伝子を増加させると思われます(Mikkonen et al., 2010)。

心血管においてもテストステロンは直接・または間接的にDHTを通じて、心臓血管細胞のアンドロゲン受容体に結合するか、膜のGタンパク質共役受容体に直接作用して、イノシトール三リン酸およびジアシルグリセロールを増加させ、カルシウムおよびカリウムチャネルに影響を与えます(Goodale et al., 2017)。

それに加えてテストステロンは炎症をレグレートし、内皮機能障害、動脈壁の厚さの増加、血管硬化、および石灰化を予防すると思われます(Elkhoury et al., 2017)。

 上記効果以外にもテストステロンは赤血球形成を調節し、ヘマトクリット値の生成をアップレギュレートします。

赤血球の数が増えることで、酸素輸送能力が向上し有酸素能力も改善されると思われます。テストステロンはヘプシジンの阻害を通じて赤血球を増やし、鉄の運びを手伝うと思われます(Ohlander et al., 2018)。

それに加えて、テストステロンのエストラジオールへの芳香族化によってテロメラーゼが活性化され、エストロゲン受容体αが増加し、赤血球増殖に繋がると考えられます(Ohlander et al., 2018)。

さらに、テストステロンのDHTへの5αレダクターゼは、おそらく骨髄刺激を通じて赤血球形成を増加させると考えられます(Ohlander et al., 2018)。

上記で分かるように、テストステロンは有酸素能力を様々な経路を通じて改善すると思われます。

 

テストステロン補充療法の有酸素能力に対する効果

 一方最近の研究ではテストステロン補充療法の有酸素能力に対する効果が疑われてきました(Chasland et al., 2021)。

運動とテストステロン補充療法の効果が比較されましたが、その報告をよく読んでみるとテストステロン補充療法群はわずかな血中テストステロン上昇にしかなりませんでした。
317 ng/dLから403.5 ng/dLまでは意味のある上昇だとは言えません。

基本的にテストステロン補充療法は250 ng/dL以下の患者を700-900 ng/dLに持っていくと効果が現れやすいです。

 同類の研究で323 ng/dLから577 ng/dLの上昇をテストステロン補充療法にて実現されましたが323 ng/dLは不足しているとは言えません(Traustadottir et al., 2018)。

テストステロン補充で有意な効果を実現するためには元々テストステロンが不足している患者(250 ng/dL以下)をできれば700-900 ng/dLの間に持っていくことが望ましいでしょう。

そのくらいの上昇でテストステロン補充療法の有酸素能力に対する効果を再度検証して頂きたいです。

 もちろん運動は非常に有力な予防・改善方法ではありますが(Chasland et al., 2021)低テストステロン患者に十分効果的なテストステロン補充療法と組み合わせると一層効果的だと推測できます。

有酸素運動は直接的に肺・心血管機能を鍛え、無酸素運動は間接的に筋肉量を増やし筋肉における酸素の提供を増加させ有酸素能力を改善します。しかし健康な血中テストステロン値でないと様々な肺・心血管機能や筋肥大が最適化されないでしょう。

従って、十分な血中テストステロンで健常な男性にとっては正常範囲内のテストステロン値を補充療法にて僅かに上昇させても有酸素能力は恐らく変わらないでしょう。

一方、正常以下の患者に十分正常範囲内に上昇できるだけのテストステロンを補充すると有酸素能力が上がりテストステロン補充療法を行う意味があるでしょう。

 

まとめると高齢に伴う有酸素能力の低下を予防するためには日常的な運動(有酸素・無酸素)が非常に大事ですが健康的な血中テストステロン環境を保つことも大切だと思われます。

 

図1

 

参考文献

Chasland, Lauren C., et al. "Testosterone and exercise: effects on fitness, body composition, and strength in middle-to-older aged men with low-normal serum testosterone levels." American Journal of Physiology-Heart and Circulatory Physiology 320.5 (2021): H1985-H1998.

Elkhoury FF, Rambhatla A, Mills JN, Rajfer J (2017) Cardiovascular health, erectile dysfunction, and testosterone replacement: controversies and correlations Urology 110:1-8

Goodale T, Sadhu A, Petak S, Robbins R (2017) Testosterone and the Heart Methodist DeBakey cardiovascular journal 13:68

Lenoir, Alexandra, et al. "Lung function changes over 8 years and testosterone markers in both sexes: UK Biobank." ERJ open research 6.3 (2020).

Mikkonen L, Pihlajamaa P, Sahu B, Zhang FP, Jänne OA
Mol Cell Endocrinol. 2010 Apr 12; 317(1-2):14-24.

Ohlander, Samuel J., Bibin Varghese, and Alexander W. Pastuszak. "Erythrocytosis following testosterone therapy." Sexual medicine reviews 6.1 (2018): 77-85.

 

執筆者紹介

 
フィンク・ジュリウス
順天堂大学医学部泌尿器科学講座 非常勤助教

【経歴】
1982年ドイツ生まれ
1986年にスイスに渡りbilingualに教育を受ける
2001年にスイス首都のベルン大学に入学し経済学を学ぶ
2004年に慶應義塾大学にて語学留学を経てベルン大学を卒業

卒業後、日本企業にて数年勤務しているうちにトレーニングの健康に対する効果に興味が湧き、2014年に日本体育大学大学院にてスポーツ・健康科学の博士課程に進学する。
在学中トレーニングとホルモンの関係について研究し、博士課程終了後、順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学講座に博士研究員として入局する。
主にテストステロンと代謝機能について研究し、2019年に順天堂大学大学院医学研究科泌尿器科学講座に入り、より一層深くテストステロンと男性の健康について研究を深める。
日本メンズヘルス医学会においても活躍し、日本のテストステロン補充療法の普及に努める。
2020年には米国に渡り、New YorkのCUNY Lehman Collegeにてトレーニングと筋肥大の研究を再開し、トレーニングとホルモン・筋肥大の関係の解明に一層近づく。
2021年より順天堂大学大学院医学研究科泌尿器科学講座客員准教授に専任され、現在米国のLos Angelesにてメンズヘルスの研究を行い日本に最新の研究や治療情報を発信している。


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