テストステロン補充療法:心血管機能に加えて、肝機能も改善できるか?#区切り 日本メンズヘルス医学会

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テストステロン補充療法:心血管機能に加えて、肝機能も改善できるか?

 以前から、錠剤や注射剤によるテストステロン補充が、肝機能に悪影響を与えるのでは、と考えられていました。その理由を理解するために少しテストステロン剤の歴史を辿ってみましょう。

 経口投与されたテストステロンは、肝臓での初回通過効果によって排除されますので、経口投与しても殆ど効果がありません。
テストステロンを錠剤として有効にするために、テストステロンがアルキル化されました。それがメチルテストステロンとなりましたがメチルテストステロンには肝毒性(すなわち、肝障害や肝腫瘍)があることがわかりました。
エステル化したテストステロン注射剤が開発されてからは、多くの国ではメチルテストステロンの生産が中止となりましたが、日本ではまだ一部の薬局でメチルテストステロン錠剤が入手可能です。

 

 最近の研究では、long acting esterであるtestosterone undecanoateによる補充療法は、肝機能を改善することが報告されています。テストステロンは脂肪酸合成を促進する酵素(acetyl-CoA carboxylaseなど)を低下させ、脂肪酸合成を抑制し脂肪肝を予防します。

 

2020年の研究では12年間にわたってtestosterone undecanoateによるTRTを行ったところ、fatty liver indexとbilirubinを優位に低下させたことが分かりました。

テストステロンは、脂肪酸合成の重要な調節因子であるSREBF-1cと、その主要な標的遺伝子であるSCD1の調節を介して、脂肪酸がエネルギーに変換されるプロセスであるβ酸化を増加させ、脂肪酸増加因子であるde novo脂質合成をLXR経路の抑制によって低下させると考えられています。
肝臓におけるde novo脂肪合成は炭水化物異化作用から生成されるacetyl-CoAサブユニットから脂肪酸を合成する生化学的プロセスです。

最近の動物実験では、テストステロンは小胞体ストレスを抑制し、大小胞性脂肪滴の形成を阻害し、脂質の輸出を促進し脂肪性肝炎を改善すると示唆されています。テストステロンが肝臓を守る経路を図で示します。

図1:肝臓におけるテストステロンによって調節される代謝 
ApoB100, apolipoprotein B-100 (ApoB100), SREBP-1, sterol regulatory element-binding protein 1; PERK, PKR-like ER kinase; IRE-1α, inositol requiring-1α; CHOP, C/EBP homologous protein; JNK, c-jun NH2-terminal kinase; NF-κB, nuclear factor kappa light chain enhancer of activated B cells; SCD1, stearoyl-CoA desaturase-1。

 

 テストステロンは肝臓において脂肪酸の合成を抑制し、脂肪酸の酸化を活性化させると思われます。さらにTRTによって中性脂肪も優位に低下し、コントロール群では観察期間中に15.2%が死亡し、このうち100%が心血管疾患でしたが、TRT群では死亡率は7.8%でその内44%のみが心血管疾患でした。

 

TRTにより血中脂肪に限らず、肝機能も改善されるデータも多くなってきて肝障害や心血管疾患に対するTRTの治療効果が注目されています。

 

引用文献:

Nieschlag, E. (2006). Testosterone treatment comes of age: new options for hypogonadal men. Clinical Endocrinology, 65(3), 275-281.
Tyagi, A., & Jeyaraj, D. A. (1999). Effects of long‐term use of testosterone enanthate. II. Effects on lipids, high and low density lipoprotein cholesterol and liver function parameters. International journal of andrology, 22(6), 347-355.
Westaby, D., Paradinas, F. J., Ogle, S. J., Randell, J. B., & Murray-Lyon, I. (1977). Liver damage from long-term methyltestosterone. The Lancet, 310(8032), 261-263.
Yassin, A. A., Alwani, M., Talib, R., Almehmadi, Y., Nettleship, J. E., Alrumaihi, K., … & Saad, F. (2020). Long-term testosterone therapy improves liver parameters and steatosis in hypogonadal men: a prospective controlled registry study. The Aging Male, 23(5), 1553-1563.
Kelly, D. M., Nettleship, J. E., Akhtar, S., Muraleedharan, V., Sellers, D. J., Brooke, J. C., … & Jones, T. H. (2014). Testosterone suppresses the expression of regulatory enzymes of fatty acid synthesis and protects against hepatic steatosis in cholesterol-fed androgen deficient mice. Life sciences, 109(2), 95-103.
Balgoma, D., Zelleroth, S., Grönbladh, A., Hallberg, M., Pettersson, C., & Hedeland, M. (2020). Anabolic androgenic steroids exert a selective remodeling of the plasma lipidome that mirrors the decrease of the de novo lipogenesis in the liver. Metabolomics, 16(1), 1-13.
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Jia, Y., Yee, J. K., Wang, C., Nikolaenko, L., Diaz-Arjonilla, M., Cohen, J. N., … & Swerdloff, R. S. (2018). Testosterone protects high-fat/low-carbohydrate diet-induced nonalcoholic fatty liver disease in castrated male rats mainly via modulating endoplasmic reticulum stress. American Journal of Physiology-Endocrinology and Metabolism, 314(4), E366-E376.

 

 

執筆者紹介

 
フィンク・ジュリウス
順天堂大学医学部泌尿器科学講座 非常勤助教

【経歴】
1982年ドイツ生まれ
1986年にスイスに渡りbilingualに教育を受ける
2001年にスイス首都のベルン大学に入学し経済学を学ぶ
2004年に慶應義塾大学にて語学留学を経てベルン大学を卒業

卒業後、日本企業にて数年勤務しているうちにトレーニングの健康に対する効果に興味が湧き、2014年に日本体育大学大学院にてスポーツ・健康科学の博士課程に進学する。
在学中トレーニングとホルモンの関係について研究し、博士課程終了後、順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学講座に博士研究員として入局する。
主にテストステロンと代謝機能について研究し、2019年に順天堂大学大学院医学研究科泌尿器科学講座に入り、より一層深くテストステロンと男性の健康について研究を深める。
日本メンズヘルス医学会においても活躍し、日本のテストステロン補充療法の普及に努める。
2020年には米国に渡り、New YorkのCUNY Lehman Collegeにてトレーニングと筋肥大の研究を再開し、トレーニングとホルモン・筋肥大の関係の解明に一層近づく。
2021年より順天堂大学大学院医学研究科泌尿器科学講座客員准教授に専任され、現在米国のLos Angelesにてメンズヘルスの研究を行い日本に最新の研究や治療情報を発信している。


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