日本メンズヘルス医学会参加記録 “運動ストレス性低テストステロン”と“心的ストレス性低テストステロン”という病名の提案 | 日本Men’sHealth医学会

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日本メンズヘルス医学会参加記録 “運動ストレス性低テストステロン”と“心的ストレス性低テストステロン”という病名の提案

2017年10月に東京大学で行われた日本メンズヘルス医学会(大会会長 秋下雅弘教授)に参加しました。今回私は、“運動ストレス性低テストステロン症”という新しい病態を発見し報告しました。

みなさんに良く知られているように、過剰なスポーツを続けると性機能に影響があります。特に有名なのは、女性のマラソン選手です。近年、女性選手が無月経もしくは月経不順に陥るまで練習をすると、その選手の健康に害があることが分かってきています。有名な研究機関には、東京大学女性アスリート外来といったものがあります。

このことによく似た病態が、更年期時期の市民ランナーに起こります。更年期の時期だけに、アスリートほどの運動をしなくても性機能の低下を示してきます。すると、生命に危険になるようなリスクの高い身体になってしまうのです。

私たちは、さまざまなマラソン大会にドクターとして参加して、実際に大会中にトラブルを起こした方に受診を促してきました。すると、多くの方が私の医療機関に受診して、悩みをお話しになられました。マラソン大会のトラブルというのは、練習不足という人もおられるのですが、そのタイプの人は原因がはっきりしているので、受診には来られません。受診されるのは、練習しても練習してもどんどん体調に異常が増えて、健康のためにマラソンをはじめたのにおかしいと疑問をお持ちになった方ばかりです。そして、その多くは、40代~50代という更年期の年齢の方です。中には、入院した人も多く、心肺停止でAEDを使用した方もおられます。

こうしたマラソン大会でトラブルを起こす方のうち男性ばかり集めて解析すると、低テストステロンであることがわかります。さらに、マラソン大会までにかなりの過剰な運動を継続されていたこともわかります。

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このグラフは、日本性機能医学会雑誌に2017年に投稿した私たちの研究論文です。市民ランナーを集めて、月間のマラソン距離とテストステロン値を調べると、月間120~150kmあたりが最もテストステロン値が高いのですが、200km以上では低くなることが分かります。つまり、健康的な運動というのは、適度な運用量があるのです。

 

今回の日本メンズヘルス医学会では、マラソン大会でトラブルのあった人を集めて、トラブルを起こさない人、および、LOH症候群の人と比較してみました。

 

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すると、運動量が予測どおりトラブル群が異常に多いことが分かります。さらに、トラブルを起こした群とLOH症候群の2つは、低テストステロンになるのですが、トラブル群の方がはるかに低いことがわかります。では、これらの症状の違いを見てみましょう。

 

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AMSスコアというのは、LOH症候群を診察するのに開発されたアンケートです。身体症状・精神的症状・性機能症状といったものが把握できます。このスコアを使うと、トラブル群は、睡眠障害と性機能のみが突出して悪化することが分かります。対してLOH症候群は全体的に悪いこと、特に心的な訴えが多いことが分かります。
 

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研究発表では、他にもトラブル群の特徴を調べて報告しました。まとめると、この表になります。トラブル群は、事前の健康診査では見つかりにくいのですが、心肺停止という重篤な病態を引き起こしやすく、しかし、発見次第に運動量を適正化すると予後は良好です。LOH症候群は、安静ではなかなか治りません。

 

今回は、トラブル群を“運動ストレス性低テストステロン症”、LOH症候群を“心的ストレス性低テストステロン症”という名前で分類することを提案しました。


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最後に、運動ストレス性低テストステロン症の診断の仕方と、治療方法のまとめです。もちろん、まだ仮説の段階ではありますが、マラソン大会での心肺停止例を救うことにつながる可能性があります。そして、その症状からメンズヘルス外来に患者が紛れている可能性もあります。みなさまのご診療に役立ててくださればうれしい限りです。

 

 

Dr.Okui

奥井識仁(おくい ひさひと)
・よこすか女性泌尿器科・泌尿器科クリニック 院長

 

【経歴】
1965年生まれ。東京大学大学院医学研究課程修了。米ハーバード大学臨床医師留学を経て、帝京大学医学部泌尿器科講師、獨協医科大学越谷病院講師などを歴任。2009年から現職。医療法人ウローギネ・ネット理事長。著書に『Dr.奥井式 原始人ダイエット』『人生を変える15分早歩き』(ともにベースボール・マガジン社)など。

よこすか女性泌尿器科・泌尿器科クリニック


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