テストステロンと筋肉の関係 | 日本Men’sHealth医学会

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テストステロンと筋肉の関係

テストステロンと筋肉の関係というと、ボディビルやプロスポーツでのドーピングなどで悪名高いかもしれません。しかしテストステロンは自然に人間の身体の中でも分泌されるステロイド・ホルモンの一つであり健康な身体を維持するために重要な役割を果たしています。テストステロンが年齢とともに低下しますと、筋肉量と筋力も落ち、また肥満、糖尿病や循環器病の発症に繋がるというエビデンスがあります。では、具体的にテストステロンは筋肥大の過程においてどのような働きをするのかをご紹介しましょう。


テストステロンの筋肥大に対するメカニズム

血中テストステロンはアルブミン(〜20-30%)または性ホルモン結合グロブリン(SHBG、〜50-70%)やその他のタンパク質と結合しわずか〜1-3%が遊離テストステロン、すなわち生物学的に利用可能なテストステロンとして残ります。テストステロンはステロイド・ホルモンであるため細胞膜を通して5α還元酵素により ジヒドロテストステロン(DHT)に変換され、または変換されずテストステロンのまま、直接核内にあるアンドロゲン受容体と結合し遺伝子転写が起き、mRNAがリボソームによって翻訳され特定の蛋白質が生成されるといったgenomicな働きをします。その様々なgenomicな働きは最終的に筋肉細胞での蛋白質合成の増加、蛋白質分解の減少、筋サテライトセルの活性化、脂肪細胞増大の抑制などといった効果に繋がります。タンパク質は筋肉の基礎的要素であり合成が分解を上回らないと筋肥大は起きません。サテライトセルは細胞の基底膜と筋鞘の間に存在し、活性化されると既存の筋繊維と結合し筋繊維を太くします。このようにテストステロンは細胞核から、筋肉を太くするように様々な信号を送ります。

一方、血中にてアルブミンやSHBGに結合されているテストステロンは細胞膜を通らないためgenomicな働きは得られないですが、テストステロンにはnon-genomic、つまり核内による転写を介さない働きも示唆されています。実際にテストステロンは細胞内のカルシウムを増加させ筋力を促進させる効果も考えられます。またはテストステロンは細胞内シグナリング分子(protein kinase A, protein kinase C, phospholipase C, phosphoinositide-3 kinase, and mitogen-activated protein kinase)を通じてDNAと直接結合しないでその他の転写因子を活性化させる報告もあります。

筋肥大効果以外にも、テストステロンは筋細胞のアポトーシス、つまり筋細胞の崩壊から守る効果も認められました。実際にP-p53の減少とFoxO3aの抑制によってテストステロンはアポトーシス を予防すると報告されています。

 

筋肉におけるテストステロンの重要な役割

中年男性がジムなどで鍛えても20代の身体をなかなか再現できない一因としては、テストステロンの低下があげられます。健康な男性の血中テストステロン濃度は350から1000 ng/dLが正常といわれています。一方、男性のテストステロンは20代にピークを迎え下り坂になります。テストステロンの低下が激しいと加齢性腺機能低下症(LOH症候群)といわれ、運動しても筋肉の増強を果たせなくなります。テストステロンは筋肉を太くする様々な信号を発信しますので、テストステロンが不足していると、トレーニングや運動をしていても効果を最大化できなくなります。筋肉が落ちた、筋肉がつきにくいなどと悩んでいる方は、まずテストステロン血中濃度を測ってみることをお勧めします。

 

テストステロンの糖代謝におけるメカニズム

最近の研究では、テストステロンが糖代謝を部分的に制御する役割を背負っていることが分かりました。テストステロンはGenomicにはアンドロゲン受容体を通じて糖代謝における大事な遺伝子(Glut4)のmRNA発現の増加、non-genomicにはグルコース取り込みを促進するPI3K/AKTの活性化を高めることが分かりました。実際に性機能低下症で2型糖尿病の患者に2週間毎に200mgのテストステロンを3ヶ月間にかけて与えた結果、インスリン感受性を表すHOMA index、血糖値、内臓脂肪と総コレステロールが減少しました。

 

結論

ドーピングで有名なテストステロンは、いまだに医療関係者から敬遠される傾向があります。しかしテストステロンは、男性の健康を保つ最も大事なホルモンと言っても過言ではありません。日常生活や身体の機能を維持するために必要不可欠な筋肉や筋力を始め、代謝を制御することで、糖尿病や肥満の予防には、テストステロンの血中濃度を健康域に保つことが必須です。一方、血中テストステロン値は一般的な健康診断などでは測られないため、多くの男性の体調不良の原因が発見されていません。筋肉量や筋力の低下、肥満、血糖値の上昇、うつ病や性欲の低下などといった症状がある男性は、まずテストステロン値の測定をお勧めします。テストステロンは強力なホルモンで体内における様々な機能を制御するため、個々の疾患を個別の薬剤で一つずつ治療するよりも総合的・根本的治療できるケースが少なくないと思われます。

 

 

 

Fink-Julius

Fink Julius
・順天堂大学大学院
・医学研究科代謝内分泌内科学 博士研究員

 

【経歴】
1982年ドイツ生まれ。スイスのベルン大学にて経済学部卒業後日本で留学を希望し横浜国立大学にて修士課程を経て感心のあるスポーツ医科学に軌道修正し日本体育大学にて筋肉とホルモンの関係を研究する。博士号取得後順天堂大学にてホルモンと疾病予防の可能性に興味を持ちその研究に没頭する。


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